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防衛省・自衛隊の仕事を受注している、あるいはこれから参入したいと考えている経営者の皆様に、いま必ず押さえていただきたい制度があります。それが「防衛事業適合事業者制度」です。令和7年6月30日に防衛装備庁訓令第19号として制定され、令和7年7月1日から施行されています。

結論から言えば、従来の「事業者秘密取扱適格性」(いわゆるFSC)の制度は令和10年3月末をもって廃止され、同年4月以降はこの新制度へ完全移行します。秘密を取り扱う防衛関連契約を続けるなら、移行は避けて通れません。本連載では全10回にわたり、制度の概要から認証・契約に必要な要件・書類までを、一次資料(訓令・実施要領・契約条項等)に基づいて解説します。

なぜ新しい制度ができたのか

背景には、国家安全保障戦略など安保3文書で防衛産業が「防衛力そのもの」と位置づけられたことがあります。令和5年には防衛生産基盤強化法が成立し、防衛装備庁は諸外国の産業保全プログラムに相当する「防衛産業保全マニュアル(DISM)」を整備、多国間産業保全ワーキンググループ(MISWG)にもアジアで初めて加入しました。国際水準を踏まえた産業保全の強化が、防衛装備・技術協力に参画する大前提になっているのです。

訓令第1条は制度の目的を、秘密又は保護すべき情報を取り扱う基準を一元化し、事業者と防衛省双方の業務を効率化するとともに、事業者の情報保全体制を強化することと定めています。

従来の仕組みの何が大変だったか

これまでは、調達契約を結ぶたびに、しかも秘密の区分ごとに、保全審査と特約条項の締結が必要でした。特定秘密・特別防衛秘密・装備品等秘密・保護すべき情報のそれぞれについて、基本契約に特約条項とガイドラインがぶら下がる構造で、複数の契約・複数の区分を抱える事業者ほど手続が重複し、負担が大きい仕組みでした。

新制度の仕組み──「事前認証+一つの秘密保護契約」

新制度は、この構造を根本から変えます。ポイントは次の2つです。

  • 認証:具体的な契約と関わりなく、事業者の秘密保全体制が防衛装備庁の定める秘密保全基準を満たしていることをあらかじめ審査・認証する(有効期間5年、繰り返し延長可能)
  • 防衛事業適合事業者契約:防衛事業に参画する具体的な意思のある事業者と、現地調査を経て常続的な秘密等保全契約を締結する(契約期間5年、繰り返し延長可能)

この契約を一つ結んでおけば、その傘の下で個別の調達契約を履行できるようになります。調達契約ごと・秘密区分ごとにバラバラだった特約が、一つの秘密保護契約にまとまるわけです。移行は、秘密を取り扱う組織単位で行います。

対象となる情報──「秘密」と「保護すべき情報」

制度が対象とする「秘密」は3区分あります(訓令第2条)。

 区分 根拠法令
 特別防衛秘密 日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法(昭和29年法律第166号)第1条第3項
特定秘密特定秘密の保護に関する法律(平成25年法律第108号)第3条第1項
 装備品等秘密 防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律(令和5年法律第54号)第27条第1項

これに加えて、秘密には至らない「保護すべき情報」(装備品等及び役務の調達における情報セキュリティの確保について〔防装庁(事)第137号〕に規定する情報)を取り扱う事業者も、この制度の下で防衛事業適合事業者契約を結ぶことになります。

契約書の構造もシンプルになる

防衛装備庁の概要資料は、従来の契約書と新制度の契約書の構造を対比しています。従来は、特定秘密・特別防衛秘密・装備品等秘密・保護すべき情報のそれぞれについて、基本契約に特約条項、ガイドライン(保護すべき情報の場合は情報セキュリティ基準)、さらに関係法令・訓令・通達・通知の引用が積み重なる構造でした。新制度では、秘密については装備保全管理課長と締結する防衛事業適合事業者契約条項に、保護すべき情報については同契約条項と情報セキュリティ基準に集約され、個別の調達契約側は違約金・解除条項等を定めた基本契約と簡素な特約条項だけになります。契約管理部門の実務負担という面でも、構造の簡素化は大きな改善です。

経営者が今すぐ押さえるべき期限

  • 令和9年6月30日まで:現に秘密を取り扱っている事業者等がこの日までに申込みをすれば、提出書類が大幅に簡素化される(移行期間の特典)
  • 令和10年3月末:事業者秘密取扱適格性(旧制度)の廃止。以後は防衛事業適合事業者制度に完全移行

期限を過ぎてからの申込みは通常の手続となり、書類も審査も重くなります。移行期間中の申込みには、提出書類の簡素化に加え、「新たに付加された基準は令和9年4月1日以降に適用される」という猶予の特典もあります。逆に言えば、移行期間を過ぎた後の申込みには通常の手続と現行基準の全面適用が待っているということです。

経営から見た3つのメリット

移行は義務であると同時に、経営上のメリットも小さくありません。第一に、手続コストの削減です。従来は案件のたびに発生していた保全審査・特約締結の事務が、5年単位の一つの契約に集約されます。複数の調達契約を並行して抱える事業者ほど効果は大きくなります。第二に、受注機会への機動力です。保全体制の確認が済んでいる状態を常続的に維持できるため、秘密を含む案件の入札・随意契約に素早く対応できます。第三に、対外的な信用力です。認証事業者には認証マークの使用が認められ、希望すれば防衛装備庁ホームページに認証事業者として公示されます。防衛分野での信頼性を示す客観的な材料になります。

本連載の構成

本連載は全10回で、

第2回:認証と契約の二本柱の関係
第3回:対象事業者の要件
第4回:審査で見られる秘密保全体制の5要素
第5回:認証申請の手続と提出書類
第6回:契約申込みの手続と提出書類
第7回:契約条項79か条の読みどころ
第8回:個別契約の特約条項と違約金・適性評価
第9回:締結後の継続的確認と保全検査
第10回:経営者のアクションプラン
以上の順で解説していきます。自社の状況に応じて必要な回からお読みいただけますが、要件と書類は相互に関連しますので、通読をお勧めします。次回は、制度の骨格である「認証」と「契約」の二本柱の関係を整理します。

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【出典】防衛事業適合事業者制度等に関する訓令(令和7年防衛装備庁訓令第19号)、同訓令の実施要領(装装保第14846号)、防衛事業適合事業者制度(概要)、認証申請・防衛事業適合事業者契約の申込みに係る提出資料について(2026年3月・装備政策部装備保全管理課)ほか防衛装備庁公表資料。本記事は執筆時点の情報に基づく一般的な解説であり、個別の申請に当たっては最新の公示・様式をご確認ください。