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前回は、首都直下地震緊急対策推進基本計画が約10年ぶりに改正された全体像をお伝えしました。今回は、改正の前提となった「新たな被害想定」を取り上げます。数字の羅列に見えるかもしれませんが、経営者の目で読むと、自社が備えるべきリスクの輪郭がはっきり見えてきます。
想定の前提――都心南部直下地震(M7.3)
新たな被害想定は、都心南部直下地震(M7.3)が冬の夕方、風速8m/sの条件で発生した場合の最大値として示されています。東京圏の人口は約3,690万人、建物棟数は約965万棟。この膨大な集積こそが、首都直下地震の被害を特別なものにしています。
主な想定値――前回(平成25年)との比較
- 死者数:約2.3万人 → 約1.8万人
- 全壊・焼失棟数:約61万棟 → 約40万棟
- 避難者数:約720万人 → 約480万人
- 避難所の食料不足(7日間):約3,400万食 → 約1,300万食
- 経済的被害:約95兆円 → 約83兆円
- 停電軒数:約1,200万軒 → 約1,600万軒
死者数や建物被害が減ったのは、この10年間の住宅耐震化や密集市街地の整備が進んだ成果です。一方で、停電軒数は約1,200万軒から約1,600万軒へと増えています。電力・通信への依存が深まった現代社会の弱点が、より鮮明になったと読むべきでしょう。
経営者が注目すべき3つのポイント
ポイント1:死者・建物被害の約7割は「火災」
死者約1.8万人のうち約1.2万人、全壊・焼失約40万棟のうち約27万棟は火災によるものです。揺れそのものより、その後の火災が被害の主因となります。だからこそ計画では、感震ブレーカーの設置や電気に起因する出火の防止、密集市街地の整備が重点施策となっています。事業所の出火防止対策は、自社を守るだけでなく地域全体の被害を左右する行動です。
ポイント2:災害関連死は約1.6万〜4.1万人という「別枠」の想定
今回大きく打ち出されたのが、災害関連死者を約1.6万人〜4.1万人と推計した点です。これは直接死約1.8万人とは別枠であり、避難生活の長期化や環境悪化がもたらす犠牲が、直接死を上回る可能性すら示しています。避難所不足が想定される中、計画は「在宅避難」の促進へ大きく舵を切りました。従業員の住まいの耐震化や家庭備蓄は、企業の人的資源を守る問題でもあります。
ポイント3:ライフラインと帰宅困難者の数字は事業継続の前提条件
- 停電:約1,600万軒、携帯電話は発災1日後に基地局の51%が停波
- 断水:約1,400万人、下水道の機能支障:約200万人
- 固定電話・インターネット不通:約760万回線
- 帰宅困難者:約840万人
通信停止によるキャッシュレス決済の停止、電力・通信やデータセンターの被災による本社系機能の停滞・低下、流通・物流機能の低下による物資不足など、この10年間でより顕著になった被害の様相も指摘されています。自社のBCPがこれらの数字を前提にしているか、一度点検してみてください。「電気も通信も数日で戻る」前提の計画は、想定と噛み合っていません。
「数字が減ったから安心」ではない
前回想定より死者数などが減少したことは対策の成果ですが、経済的被害約83兆円は国家予算に匹敵する規模であり、サプライチェーンを通じて全国、さらに国内外へ影響が及ぶとされています。緊急対策区域の外にいる企業も無関係ではいられません。東京圏との取引がある限り、この被害想定はすべての経営者の経営リスクです。
次回は、この想定を踏まえて設定された「新たな減災目標」と、47個から189個へ拡充された具体目標を解説します。
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本記事は「首都直下地震緊急対策推進基本計画」(令和8年6月12日閣議決定)および首都直下地震対策検討ワーキンググループ報告書(令和7年12月19日公表)の概要資料に基づいて執筆しています。被害量は一定の条件下の試算である点にご留意ください。